2025年12月12日、品確法・建設業法・入契法の3つを一体的に改正した「第三次・担い手3法」が完全施行されました。中小の建設業者にとって、この改正は「コストが上がる」「手続きが増える」といった負担の話だけでは終わりません。
実は、長年続いてきた「安く取る人が仕事を取る」市場の構造そのものが、法律によって変わったという、根本的な転換点です。
この記事では、まず担い手3法の全体像と変わった3つのルールを整理した上で、中小建設業者が今すぐ確認しておきたい問いを3つ提示します。
担い手3法とは|2025年12月に完全施行された改正の全体像
「担い手3法」とは、以下の3つの法律の総称です。
- 品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)
- 建設業法
- 入契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)
最初の改正は平成26年(2014年)。二度目は令和元年(2019年)の「新・担い手3法」。そして三度目が令和6年(2024年)6月公布の「第三次・担い手3法」です。この第三次版が令和7年(2025年)12月12日に完全施行されたことで、いまの建設業の取引ルールが大きく書き換わりました。
改正の目的は、ひと言で言えば「担い手の確保」です。
建設業就業者数はピークの685万人(1997年)から、2023年には483万人まで減少。55歳以上が36.6%、29歳以下は11.6%。「人が入ってこない」「育てる前にやめる」という構造を、取引ルールの側から修正するしかない——というのが立法側の判断でした。
これまでの「安く取る人が仕事を取る」市場では、結局しわ寄せが現場の職人や下請けに行き、人が辞め、業界全体が縮小していく。その悪循環を法律で断ち切る、という設計です。
第三次・担い手3法で変わった3つの主要ルール
押さえるべきポイントは3つあります。
① 標準労務費の設定|著しく下回る見積もり・契約は違法に
国土交通省に設置された審議会が、「労務費に関する基準(=適正な労務費)」を作成・勧告するようになりました。この基準を著しく下回る見積もり・契約締結は、公共工事・民間工事を問わず禁止されます。
つまり、これまで「元請けに『もう少し下げられないか』と言われて削ってきた職人さんの取り分」を、法律が守る側に回ったということです。元請けが下げろと言うのも、下請けが自ら下げるのも、どちらも違反になります。
② 建設Gメンが稼働|違反建設業者への勧告・社名公表
ルールができても運用がないと意味がない、ということで、国土交通省は「建設Gメン」と呼ばれる調査員を稼働させています。違反業者には勧告、悪質なケースでは社名公表。2024年度からは個別工事の単価水準まで踏み込む「2次調査」も始まっています。
社名公表は、公共工事の入札参加だけでなく、民間元請けからの選定にも影響します。法令違反業者として名前が出ること自体が、取引機会の喪失につながる時代になりました。
③ 資材高騰の価格転嫁と適正工期の法定化
近年の資材価格高騰に対して、これまでは「下請けからの価格交渉を、元請けが取り合わない」という慣行が広く残っていました。今回の改正では、資材高騰時の価格交渉を門前払いすることが禁止になり、契約書には資材価格変動時の「変更方法」を明記することが義務付けられました。
工期についても、「著しく短い工期」の契約締結が禁止されます。下請けが自ら短い工期を申し出た場合でも違法、というのがポイントです。これは「短納期を強いる」だけでなく「短納期を引き受ける」側の責任も問う、という新しい設計です。
なぜ「安く取る」が通用しない市場ができたのか|数字で見る建設業のコスト構造
法律の変化だけ見ても、現場感は伝わりにくいかもしれません。背景にあるコスト構造の数字を一つだけ紹介します。
国土交通省の「公共工事設計労務単価」は、2025年度の全国平均で24,852円/日(主要12職種加重平均)。2012年度比で85.8%の上昇、13年連続の上昇です。
この単価は「公共工事の予定価格を組むときに使う、職人さんの1日あたり労務費の標準値」で、民間工事の参考にもなります。この単価が13年で1.85倍になったということは、人件費を「コスト」と捉えて削る発想自体が時代遅れになっている、ということを物語っています。
それでも、これまでの市場では「価格競争で安く取る → 利益が出ない → 人を雇えない・育てられない」という構造が抜けませんでした。担い手3法は、この構造そのものを変えるための法制度なのです。
つまり、「コストが上がる」というよりは、「上がったコストを、正当に転嫁できる仕組みができた」というのが、今回の改正の本質的な意味です。
中小建設業者が今すぐ確認すべき3つの問い
法律と数字の話を踏まえて、御社の状況を確認しておきたい問いを3つお出しします。
Q1:自社の見積書に「労務費の内訳」が明記されているか
新ルールの下では、見積書に労務費の内訳を明示することが事実上の標準になります。「労務費がいくら、資材費がいくら、根拠はこの基準」と説明できる会社が、選ばれる側に回ります。
逆に、どんぶり勘定で総額だけ出している会社は、法令を守りたい元請けほど仕事を出しにくくなる——という静かな選別が、すでに始まっています。
Q2:大手の動向に「2〜3年遅れで追従できる」体制があるか
戸田建設は全社員にAI資格取得を推進、鹿島建設は自動配筋システムで作業効率5割増を実現。こうした大手の動きは、数年後には中小の取引条件として降りてきます。
「ICT対応できますか」「BIM/CIMで連携できますか」が静かな選別基準になる前に、できることから始めておく。これは哲学ではなく、取引継続のための実務判断です。
Q3:「人が辞めない会社」を採用の武器にできているか
CCUS(建設キャリアアップシステム)に基づく適正な賃金水準、完全週休2日制、社会保険完備。これらを「コスト増の要因」と見るか、「採用市場での武器」と見るかで、中期の人手確保が大きく分かれます。
人を切って利益を出すのではなく、人が残ることで利益を守る。担い手3法が中小建設業に与えた最大の武器は、ここにあります。
ここまでが「法律と数字の整理」と「経営者の3つの問い」です。
では、御社の場合、具体的にどこから手をつければよいのか。利益率の見直し・労務費の組み直し・採用の武器化——どれを優先するかは、会社の財務状況によって変わります。
その判断軸を、業界データと一緒に、別の角度から整理した記事をnoteで公開しています。
➡️ 建設業の社長へ。「安く取る」は通用しなくなった日の話。(note)
➡️ 建設業の粗利率、守れていますか。赤字工事をなくす原価管理の始め方(note)
まとめ|2026年は中小建設業の「第2の創業期」
担い手3法の完全施行は、ただの法改正ではありません。
これまで通用してきた「安く取って、利益を削って、人にしわ寄せして回す」というやり方が、法律によって通用しなくなった。同時に、「正当な対価で仕事をして、その利益で人を育てる会社が報われる市場」が、ようやくできた——ということでもあります。
中小建設業者にとって、2026年は「第2の創業期」です。
新しいルールに合わせて会社の見積もり・契約・採用を組み直すか、それとも今のままで利益を削り続けるか——どちらを選ぶかで、2030年までの位置取りが決まります。
判断に迷ったら、まずは数字を一緒に見るところからでも構いません。
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参考資料
- 国土交通省「第三次・担い手3法ポータルサイト」 https://ninaite-sanpo.mlit.go.jp/
- 国土交通省「労務費に関する基準ポータルサイト」 https://roumuhi.mlit.go.jp/
- 国土交通省「令和7年3月適用 公共工事設計労務単価について」(2025年2月発表)