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建設業の利益率が低い本当の理由|業界統計から構造を読む

建設業の利益率が低い理由を業界統計から読み解くインフォグラフィック

建設業の利益率が低い本当の理由|業界統計から構造を読む

「現場はフル稼働しています。売上も伸びています。なのに、決算を締めると手元に何も残っていない」

こういう声は、工種や規模を問わず、中小建設業の経営者から繰り返し聞こえてきます。

原因は「受注競争が激しいから」「資材が高騰しているから」で片付けられることが多いのが実情です。それは事実だが、構造の説明としては半分しか正しくありません。利益率の低さには、業界固有の原価構造と、それを把握しきれていない管理の形が複雑に絡み合っています。

この記事では、財務省・国土交通省・建設業情報管理センター(CIIC)の統計データをもとに、建設業の利益率が低くなるメカニズムを整理します。「なぜ低いのか」の解像度が上がれば、自社の決算書の見え方も変わってきます。


建設業の利益率は「全産業比較」でどのくらい低いのか

まず数字から確認します。

財務省「法人企業統計(2024年度)」によれば、建設業の売上高経常利益率は 5.4% 。1960年度以降で過去最高水準を記録しているにもかかわらず、全産業平均の6.8%、製造業の8.6%を下回ります。さらに、資本金1億円未満の中小規模に限ると 4.4% まで低下します。

(出典:財務省 法人企業統計 https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/data.htm)

一方、売上高総利益率(粗利率)に目を向けると、建設業情報管理センター(CIIC)「建設業の経営分析(令和5年度)」では、建設業全体の平均粗利率は 25.95% と出ています。

(出典:一般財団法人建設業情報管理センター https://www.ciic.or.jp/course/bunseki/backnumber/)

つまり、現場では約26%の粗利を稼いでいます。それが最終的に4〜5%台の経常利益率に落ち込みます。差し引きおよそ20ポイント分が、販管費と固定費に消えている計算になります。

この「粗利は出ているのに手元に残らない」という構図が、建設業の利益問題の核心です。


業種によって粗利率は10ポイント以上変わる

「建設業の利益率」を一括りに論じると実態を見誤ります。工種によって、原価の構成比がまったく異なるからです。

CIIC「建設業の経営分析(令和5年度)」のデータから整理すると、粗利率の業種別目安は次のようになります。

業種 粗利率の目安
設備工事業 約30%
職別工事業 約29%
土木工事業 約26%
建築工事業 約20%
土木建築工事業 約18%

(出典:一般財団法人建設業情報管理センター https://www.ciic.or.jp/course/bunseki/backnumber/)

設備・職別工事のように専門技術を直接提供する業態では、外注比率が低く付加価値を乗せやすくなります。一方、建築・土木建築のように多数の専門工事業者を束ねる元請け型になると、外注費の比率が高まり、粗利率は相対的に低くなる構造です。

なお、日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査(2024年度)」によれば、内装工事業の粗利率は全企業平均で43.0%と高い水準にあります。しかし、同調査の営業利益率を見ると黒字企業平均でも4.3%、中央値は0.5%にとどまります。粗利率が高いにもかかわらず、最終的な営業利益がほぼ消えてしまっています。「現場での稼ぎを固定費が食いつぶす」という構図は、業種を問わず共通しています。

建設業の業種別粗利率の比較グラフ


利益を押し下げる3つの構造的コスト

粗利から営業利益までの「20ポイントの落差」はどこで生まれているのか。大きく3つの構造的な要因があります。

① 外注費の管理不足が利益を直撃する

建設業において、外注費は完成工事原価の50〜70%を占めるケースが少なくありません。この比率が高い業態では、外注費の管理精度が利益率にそのまま跳ね返ります。

たとえば、営業利益率が4%(売上高1億円に対して400万円)の企業で、外注費がわずか5%上振れしたとします。外注費の上振れ分は300万円(6,000万円×5%)。それだけで営業利益は400万円→100万円に落ちます。利益率で言えば4%から1%へ、3ポイントの低下です。

現場の「どんぶり勘定」——追加工事の未請求、手戻りによる再発注、事前の価格交渉不足——が、このわずか5%の上振れを引き起こします。外注費の管理不足は、利益率を3〜5ポイント押し下げる破壊力を持っています。

② 労務費の高騰を見積もりに転嫁できていない

国土交通省「公共工事設計労務単価(全国全職種平均)」は、2013年度から13年連続で上昇を続け、2025年度には24,852円と、2013年度比で +63.8% に達しています。

しかし多くの中小建設業では、この上昇分を見積価格に転嫁できていません。過去の慣例的な「人工単価」で見積もりを出し続けた結果、支払い労務費との間に逆ざやが生まれています。

労務費率が25%の企業で、労務単価が10%上昇しても価格転嫁できなかった場合、利益率はそれだけで 2.5ポイント 低下します。この「しわ寄せ」を複数年放置すれば、赤字転落は構造的に避けられません。

③ 固定費の重さを「売上で薄める」発想の限界

現場監督の人件費・リース代・安全管理費といった「現場管理費」は、売上の増減にかかわらず発生し続けます。本社経費(減価償却費・地代家賃・事務員人件費)も同様です。

年間固定費が3,000万円の企業を考えます。限界利益率(売上から変動費を引いた率)が20%なら、損益分岐点売上高は1億5,000万円。しかし薄利受注を続けて限界利益率が15%に低下すると、損益分岐点は2億円に跳ね上がります。同じ「赤字にならない」ラインに達するために、5,000万円分の売上を余計に作らなければならない計算になります。

「売上を上げれば固定費が吸収される」という発想は、限界利益率が低下するほど崩れていきます。大手ゼネコンの粗利率は実は10〜15%程度と低いが、数千億円の売上ボリュームで固定費を吸収する「薄利多売モデル」で成立しています。売上規模が数億〜数十億円の中小建設業がこれを真似ると、固定費の回収が追いつかなくなります。

建設業の利益を押し下げる3つの構造的コストの図解


元請けが「選ばない」企業の財務水準

利益率の話は、自社内部だけの問題ではありません。元請けは、下請けの財務健全性を選定基準として見ています。

粗利率が業界平均を大きく下回る水準(例:15%未満)や、自己資本比率がマイナス(債務超過)の企業は、次のリスクがあると判断されます。

  • 安全管理費を削ることによる重大事故のリスク
  • 職人や資材業者への支払い遅延・未払いのリスク
  • 工事途中の倒産による工期遅延のリスク

元請けが探しているのは「安い業者」ではありません。「最後まで現場を納められる、潰れない業者」です。適正な粗利率(20〜25%以上)を確保し続けることは、コスト管理の問題であると同時に、取引継続の条件でもあります。

TKC「経営指標(BAST)」(令和8年版)に収録された建設業の黒字企業割合は 58.2% 。つまり約4割の建設業者は赤字決算で経営しています。黒字企業群(一般電気工事業・土木工事業など)は、限界利益率が40〜50%台と高く、経常利益率では8〜11%台を確保しています。この差は、業種の違いだけでなく、外注費と固定費の管理精度の差として読めます。

(出典:TKC経営指標BAST https://www.tkc.jp/tkcnf/bast/sample/、建設経済研究所 https://www.rice.or.jp/regular_report/analysis-html/)


経営者が自社で確認すべき3つの問い

「建設業の利益率が低い」は、マクロな話として理解できても、それが自社のどこで起きているかは別の話です。以下の3つの問いに、決算書と原価台帳を手元に置いて答えてみてください。

問い1:粗利率の乖離を説明できるか 直近1年間で完了した工事のうち、粗利率が最も高かった案件と最も低かった案件はどれか。その乖離が生じた要因を、外的環境のせいにせず、自社の数字と現場の事実で説明できるか。

問い2:損益分岐点売上高を即答できるか 自社の年間固定費を賄うために、現在の平均的な粗利率を前提とした場合、最低いくらの売上が必要か。この数字を「即答」できる状態にあるか。

問い3:予算超過を工事中に検知できるか 外注費や材料費が予定より上振れしたとき、あるいは人工が予定よりかかっているとき、それを決算を待たずに工事進行中に把握できる仕組みがあるか。

これら3つに即答できない場合、利益はどこかで今も静かに漏れ続けています。構造を変えるための入口は、「どこが漏れているか」を可視化するところから始まります。

建設業経営者が自社利益率を診断するための3つの問いの図解

現場の管理工数削減と利益回収の両立については、以下のnote記事で掘り下げています。

➡️ 建設業の現場監督の89%が悩む非効率と、利益を取り戻す分業化(note・無料)

➡️ 建設業の日報を5分にするAI活用の全手順(note・無料)

自社のキャッシュフローを3年スパンで試算したい場合は、こちらも参照していただければと思います。

➡️ 建設業の社長へ。3年後、手残りはいくらですか。(note・有料)


まとめ:利益率の低さは「構造」の問題。だから構造から手をつける

建設業の利益率が低い理由を整理すると、次の3層になります。

  1. 粗利の薄さ:外注比率が高い業態ほど、現場での稼ぎは少ない
  2. 粗利の漏れ:外注費の上振れ・労務費の転嫁漏れが、稼いだ粗利を削る
  3. 固定費の重さ:販管費が売上規模に対して相対的に大きく、粗利を食いつぶす

この3層のうち、経営者がすぐに手をつけられるのは「②粗利の漏れ」です。実行予算の作成と週次の予実管理を始めるだけで、どの現場で利益が溶けているかが見えてきます。見えれば、止める手が打てます。

2025年12月施行の改正建設業法では、中央建設業審議会が作成・勧告する「標準労務費」を著しく下回る見積りの提出や、それに基づく原価割れ契約の締結が法的に禁止されます。「値切られたら応じる」という慣行が、制度面からも変わりつつあります。この動きは、適正価格での受注を交渉する根拠として使えます。

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参考資料